特別連載 日本語教科書活用講座② / 日本語 会話の授業 『上級話者への道』 「中級から上級に向けて-上級話者になるための授業と学習」 第4回「授業編―中上級レベルの学習者の授業例」

講師紹介 伊藤とく美 岩谷学園テクノビジネス専門学校日本語科主任教員
『日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現』共著者


第4回 「会話の授業実践編3-1-中上級学習者クラスの授業例-」


今回は、中上級(中級後半)レベルの学習者のクラスの授業について、実際に『日本語上級話者への道』を使ってどのように授業を行ったらよいか、留意点について考えていきます。


中級から中上級のレベルの話者に欠けている日本語能力として以下のことが挙げられます。

その欠けているところを練習して上級レベルに到達できるよう指導していきます。


1.中級レベルの話者に欠けている能力

(1)ある話題について話すとき、どのような内容について話すことが期待されているのかわかっていないこと

(2)まとまりなく思いつくままに話しているので何を言いたいのかが伝わりにくいこと

(3)話題に応じた語彙や表現が使えないこと

上級レベルでの目標設定

主な時制・アスペクトを使って叙述、描写ができる。複雑な状況に対応できる。文を円滑につなぎ合わせて、ある程度詳しく叙述したり、描写したりする。一般的な語彙をつかって事実を伝えたり、そのときの社会一般の関心事や個人的な話題について気軽に話したりできることを目標とします。


2.「期待される発話内容」とは何でしょうか?

ある話題について話すとき、聞き手の期待している発話内容とは

→その話題について、理解をするために必要なこと

その話題について相手が知りたいと思うこと


「まとまりのある話」とは

内容の一貫性と表現上の結束性・論理的展開がある話


まとまった話の構成、わかりにくい発話とわかりやすい発話

連文:

内容的な統一がなく、論理的展開もできず、ただ文を並べただけの発話

順段落:

内容的な統一はあるが、論理的展開・構成が明確でないこと、または、文法的な誤りや未熟な表現があるため意味・内容の明確さに欠けることから、段落になりきれない発話

段落:

いくつかの文が内容的に一貫性を持って有機的に結合され、かつ話題に論理的展開・構成が明確なひとまとまりのもの

複段落:

一つ以上の段落から構成され、新しい情報が一文以上の形で先行の段落に関連付けて付加されたもので、論理的展開が明らかで全体として結束生・一貫性がある発話の集合


わかりにくさ解消のための「まとまりのある話」の指導とは

→要求されている発話内容の確認と一貫性の意識の養成

中級レベルの話者は連文や順段落で話してしまうため、わかりにくくなります。ですから段落や複段落で聞き手の期待に応えられるまとまりのある話ができることを目指します。


3.授業例1 「期待される発話内容」

第6課「スポーツの面白さを伝えよう」


●さあ始めよう

スポーツについて知っていることや経験を思い出して話し合ってもらいます。そして、どの程度話せるのか確認します。教科書の質問を見てペアまたはグループで話し合って、あなたの国にしかないスポーツ、盛んなスポーツ、興味のあるスポーツなどについてクラスで発表してもらいます。



リン:
あなたの国の独特なスポーツについて説明してください。
ロベルト:
ブラジルのスポーツはカポエイラです。スポーツですけどダンスでもあります。音楽もあります。にぎやかでおもしろいです。んー、足を回します。えーと、反対に・・・逆に、逆さ?に、立ったりします。そして、技術はどちらがいいかを競争します。
えーとね。一番初めは黒人が自分を守るためにダンスしているように見せて喧嘩の練習したんです。頭いいですね。でも、黒人はいじめられたから仕方ないですね。
ブラジルはサッカーも大人気です。子供から大人までサッカーをします。ワールドカップは有名ですね。いい選手が大勢いますが、私はロナウドのファンです。いつも、テレビで見て応援します。・・・

ロベルトさんはブラジルのカポエイラについて説明しようとしています。内容はスポーツの「名前」や「行われ方」、「感想」や「起源」、そして、ブラジルで人気のある「サッカーの話」など思いついたままに次々と話しています。

でも、聞き手にわかるか、興味を感じているか、どんなことを話せばいいかなどよく考えずに話しています。ですから、構成を意識する、何についての説明が期待されているのかを理解する、適切な語彙や表現を増やすことが必要になります。
①聞き手の要求に応えて、ブラジル独特のスポーツについて、テーマを統一してまとまりのある話をする。

②ブラジル独特のスポーツについて、内容を充実させて聞き手に興味をもってもらえるような話をする。

●何をどんな順序で
何についてどの程度話せばいいか、また、どんな順序で説明するとわかりやすいか考えます。


●どんなことばで1
自分の話す内容や順序が考えられたら、わかりやすく伝えるための語彙や表現を練習します。競技の種類や場所・使う道具に関することばを学びましょう。


●やってみよう1
話す内容と構成が決まり語彙や表現がわかったら実際に話してみましょう。

競技の行われ方や勝敗の決め方などを説明するとき、質問に答えながら説明の練習をしましょう。説明してみて分かりにくい内容や表現、不足していると気付いたことなどをお互いに伝え合ってさらに練習をしていきます。

改善例 (「どんな順序で」や「どんなことばで」を終えた後の発話例)
ロナルド:
私の国のブラジルには「カポエイラ」というスポーツがあります。これは二人の競技者が技術を競い合うスポーツです。日本の柔道や空手、タイのムエタイと似ています。カポエイラは回転や倒立など両足を使います。相手を殴り倒すのではなく、技術を競い合う独特なスタイルです。
起源は黒人奴隷が自分を守るため密かに鍛錬したことにあるそうです。カポエイラは手を使わないため、本格的な格闘技には不向きです。それで、現在は音楽も加わった芸術的スポーツとして行われています。今は世界各国で知られていますが、我が国独特のスポーツと言えます。

テキストではサッカーやテニスをテーマにそれらのスポーツに関する語彙や表現を増やし、練習します。カポエイラについて話したロベルトさんの場合は教室にいる他の学習者から質問を受け、その中で語彙や表現を増やし、構成を考え発話が改善されました。このときに、作文を書くのではなく、メモ程度で発表するのがポイントです。

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