特別連載 日本語教科書活用講座39 / 身近な話題で自然な会話 『ストーリーと活動で自然に学ぶ日本語 いつかどこかで』を使った授業
「いつかどこかで」の指導について
・はじめに
当校は東京王子外国語学院という都内にある日本語学校です。
学生は中国、ベトナム、ネパールなどを中心とした多国籍クラスを中心に行っております。
学生たちの目標は大学、専門学校進学ですが、日本での日常生活を過ごす中で、または進学の面接などにも会話力を上げたいというニーズがあります。
初級を終了し少し経つと、日本語力の上達は目に見えにくくなり、中だるみの時期がきます。学習者がこの期間を辛抱強く乗り越えることができれば、さらなるステップアップへとつながるのですが、なかなかこの期間を上手に乗り越えることは難しいと思います。
そこで、あえて文法の比重もあまり大きくなく、身近な話題で会話ができる『ストーリーと活動で自然に学ぶ日本語 いつかどこかで』(以下、『いつかどこかで』)を使い、自然な会話を行うことを課の最終目的としました。
・対象クラス
『みんなの日本語初級Ⅰ、Ⅱ』が終了してから、『中級へ行こう』に進み、そのあと『いつかどこかで』へと進めています。
・テキストの進め方とペース
各2コマ/1日(1コマ45分、発表などタスクがある場合は3コマ)
各課の授業の流れ
① 本文CDを聞き、大まかな意味をくみ取る、語彙を聴きとる
「語彙と表現」、「本文読み」
②「文法と例文」→対応する「文法練習」
③「本文」精読→「読解練習」(会話の問題は抜く)
④「会話」→「読解練習」で会話からの読み取り問題があれば行う
→タスクまたはロールプレイ(タスクシート使用など)を練習し発表する
・全体の時間数、テストについて
このような流れで1日2コマ、1課を4日間で進めました。教科書1冊は3か月くらいで終了となります。
また、テストは5課ごとに筆記の試験と会話の試験を行いました。
会話試験は、5課までのロールプレイが終わった時点で、学生たちをペア分けし、5課分各課のタスクシートをくじ引きのように引かせます。
学生たちはタスクシートの指示をクリアすべくペアを作りテスト日までの間、各ペア、各自で練習します。
発表はクラスで行います。学生は他の学生の発表を見て点数を付けます。
この評価表の目的は、他の学生の発表をしっかり聞くことです。これにより、発表者以外の学生も静かに発表者の発表を聞く姿勢が出てき、またほかの人の発表から自分の発表でも気を付けるべき点を意識できるようになります。
発表者側もクラス全体が評価を行うことで、緊張感が生まれ事前準備をしっかり行うなどが見られます。
タスクシートの例 1課
ペアがどのような役割でどんなタスクをクリアしなければならないか書いてあります。
例 1課 不動産屋さんとお客さん
お客さんはどんな家に住みたいか、場所、家賃など条件をいい、不動産屋さんが紹介する家がいいかどうかを考えて答えてください。
不動産屋さんはお客さんの住みたい家の情報を聞いて、家を勧めてください。などの指示が書いてあります。
・テキスト使用に関しての難しさ
難しかったのは、ロールプレイとタスクでした。本書付属の別冊、ロールプレイとタスクの指導法という項目があり、そちらを参考にしたところもありましたが、課によってはそのまま使用せず、学校での自作というものもあります。教務担当の教師が手分けをして、ロールプレイ、タスクのベース教材を作ったため、現在はそれを毎回使用している状態です。
例を言うと、1課のアパート探しなどは指導法に書かれていたように、まずはインターネットの物件サイトを一緒に見て、使われている語彙などを説明し、別冊についている条件シートで、まずは調べ方を確認し、語彙などの説明も行い、その後、学生に家賃や広さなどの条件シートの記入をさせます。それから、ペアで、テキストの会話を参考にしながら、お客さんと不動産屋さんになってロールプレイを行います。4課「アルバイト探し」、6課「旅行に行こう」、13課「郵便で送る」などはロールプレイの際に実際の生教材を使用しています。
その中でも、一番難しかったのは10課でした。この課の会話は母親と息子が料理について聞くということだったのですが、学生たちにはそのシチュエーションで会話を考えるのは難しく、またタスクにあったような料理の作り方をメモするというのも難しいと感じました。
そこで、この課のロールプレイは自分の国の料理について説明を行うということにしました。学生たちは外国人として日本で生活をしていく中で、「あなたの国ではどんな料理が有名なんですか。」のような自分の国のことを説明する機会は多いと思います。その問いに対して、料理名は母国の言葉で言えたとしても、ほかの国の人にはそれがどんなものなのか、野菜料理なのか、肉料理なのか、甘いのか、辛いのかわかりません。「ミルク粥が有名です」と言われても、その名称からはどんな食べ物か想像はつかないと思います。そこで、この課のタスクは日本人と外国人の会話例プリント( たこ焼きの説明 )を参考に作りました。
ここの会話では、材料などを細かく言う必要はありません。だいたいどのような材料で、焼くのか、蒸すのか、煮るのか、味付けはどのように行うのかなどを多国籍のペアを作り、会話を作らせました。このようなシチュエーションというのは留学生である学習者が日本人との会話であり得るものだと考えました。
・このテキストを使用したメリット
このような授業を行うことで、学生は生活でもすぐに使える日本語を勉強することができ、さらに会話テストの練習過程を通して、話し手同士の関係性を考え、使う言葉を選んだりと言葉への意識も高まります。
また、不動産屋さんや商品を勧める店員さんの会話ではアドリブでジェスチャーをつけたり、臨場感を出すために道具を使用するなど様々な学生の工夫が見られました。普段のテストでは見られないところを褒めることができ、学生のモチベーションをあげることにも役立ったと思います。実際に、これを学習した学生の中からも、4課の「アルバイト探し」のような電話での問い合わせについて、「こういうのをもっと早く練習しておきたかった」という声も聴かれました。
・さいごに
学習者のニーズの一つとして、会話の上達というのは欠かすことのできないものだと思います。15課という項目立ての中で学習者の生活に近いテーマばかりを集め、本文と会話という二つの構成から内容理解や練習を行うことができるということで、主教材としても使用できるテキストになっていると思います。様々な観点から学習者の指導ができ、かつ文章中では分かりにくい、話し相手との関係性も意識して練習できることから、初中級の教材として面白味のある教材だと感じました。
ストーリーと活動で
自然に学べる日本語
いつかどこかで