文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで
読解教育では、学習者の理解を補助するために、教材となる文章に興味深い内容を盛り込んだり、分かりやすい内容にしたりするなど、様々な工夫がなされています。しかし、文章の理解には、文章それ自体の言葉の特性以上に、人間の記憶のシステムや情報処理のメカニズム、視覚や聴覚などのあり方、読み手の特性などが大きく関わっています。そのため、効果的な読解指導を行うには、このような人間の理解の仕組みを知ることが有用であるといえます。
本書は、このような、文章を読み、理解する行為の仕組みを具体的かつ実証的に裏付けられたデータに基づき解説しています。日本語教育や国語教育の現場で読解教育に携わる方々におすすめの一冊です。
目次
はじめに
第1部 分かるとはどういうことか
第1章 読む行為:ボトムアップ処理とトップダウン処理
1.1 「分かる」という感覚
1.2 ボトムアップ処理とトップダウン処理
1.3 出来事間の関係を理解する
1.4 理解は言語表現に対して補足的に働く
1.5 論理のステップを推論で埋める
1.6 相互作用モデル
1.6.1 相互作用モデルの必要性
1.6.2 並列分散処理
第2章 知識のひな型をもとに理解する:スキーマ理論
2.1 記憶は知識のひな型を通して変容する
2.2 知識のひな型
2.2.1 スキーマ
2.2.2 フレーム
2.2.3 スクリプト
2.2.4 物語文法
2.3 スキーマの弊害
2.3.1 スキーマの活性化が理解を妨げる
2.3.2 スキーマ理論は定義ではない
第3章 読み始めから文章全体の理解へ:命題分析とマクロルール
3.1 文を記憶すると
3.2 キンチュの命題分析
3.3 マクロ構造
第4章 文章を理解するとき心の中では何が起こっているのか:メンタルモデルと状況モデル
4.1 テクスト、命題的テクストベース、状況モデル
4.2 状況モデル
4.2.1 メンタルモデルと状況モデル
4.2.2 状況モデルの表象形式
4.2.3 状況モデルとしてのメンタルマップ:空間的配置の理解
4.2.4 算数の文章題の理解
4.2.5 なぜ状況モデルが必要か
4.3 キンチュ(W.Kintsch)の功績
4.3.1 心理学者キンチュ
4.3.2 キンチュの言語理解モデルの特色
第5章 どこまでが文章の内容でどこからが推論か:推論のタイプ
5.1 推論とは何か
5.2 推論研究の問題点
5.3 二つの推論:橋渡し推論と精緻化推論
5.3.1 橋渡し推論
5.3.2 精緻化推論
5.4 「推論」の全体像をとらえる
5.4.1 推論の方向性からの整理
5.4.2 キンチュによる推論の分類
5.4.3 推論生成の四面体
第2部 何が「分かる」に影響するか
第1章 人間の情報処理の「くせ」:バイアスとヒューリスティクス
1.1 思考の「くせ」:バイアス
1.2 ヒューリスティクス
1.2.1 ヒューリスティクスとアルゴリズム
1.2.2 ヒューリスティクスとバイアス
1.3 バイアスのさまざま
第2章 人間の記憶の仕組み:作動記憶・短期記憶・長期記憶
2.1 人間の情報処理の仕組み:作動記憶
2.2 多義語の理解と作動記憶
2.3 記憶の二重貯蔵モデル:短期記憶と長期記憶
2.4 短期記憶の特徴
2.5 意味記憶の構造
第3章 人間の知覚と視点
3.1 カクテル・パーティー現象
3.2 「見る」行為は特定の視点に基づく
3.3 読む視点
3.4 「図」と「地」:「見る」行為は単なる外界のコピーではない
3.5 見ることにも文脈がある
3.6 要素還元主義と全体論的見地
第3部 より良い理解のためには:読解活動を学習に活かし、応用するために
第1章 「文章の学習」と「文章からの学習」
第2章 理解の土台をつくる:アナロジー、先行オーガナイザー
2.1 アナロジーとは
2.2 先行オーガナイザー
2.3 具体的アナロジー
2.4 授業の進行の見通しを良くする教授マップ
第3章 図はどのように用いたらよいのか
3.1 図は理解を助ける
3.2 絵や図の分類
3.3 絵や図の機能とは
3.4 図をより効果的にするには
3.5 どうして図は理解を助けるのか
3.6 読めない図
第4章 読解ストラテジー
4.1 読解ストラテジーとは
4.2 熟達した読み手のストラテジー
4.3 ストラテジーとしてのトップダウン処理、ボトムアップ処理
4.4 ストラテジーを教える
4.4.1 ストラテジーを教える際の留意点
4.4.2 ニストらの実践
第5章 「分かっている」状態が分かっているか:メタ認知とモデリング
5.1 メタ認知
5.2 メタ認知は訓練可能である
第4部 読みと個性
第1章 文章理解の三要因
1.1 読み手と文章との相互作用
1.2 読解は多様である
第2章 文章の意味はどこからくるか
2.1 書き手の意味と処理される意味
2.2 専門家としての読み
2.3 知識をどう見なすか:認識論的信念
第3章 少し読みにくいほうが効果がある
3.1 推論能力と読解能力
3.2 推論労力による効果
3.3 労力と効果:関連性のレベル
第4章 個人のスタイルを測る:思考スタイル、学習スタイル
4.1 学習スタイルの理論
4.2 フェルダーとシルバーマンの学習スタイル理論
4.3 個性に応じた教育へ
第5章 読解と個人差
5.1 大学生の学習・思考スタイル
5.2 読解を信念の変化として考えると
5.3 読み手の学習・思考スタイルと論証パターン
第6章 文化的背景と読解
6.1 日本語の「論理」
6.2 外国人日本語学習者の日本語読解プロセス
6.2.1 外国人日本語学習者が日本語を読むと
6.2.2 ストラテジーを使い分ける
6.2.3 読解ストラテジーの使い分けの重要性
6.3 レトリックと文化
第7章 読解研究と読解教育
7.1 読解研究から読解教育へ
7.2 読解教育と作文教育
7.3 外国語習得から読解研究へ
コラム 結束性:項の反復
参考文献
おわりに
索引